英霊への鎮魂と次代を担う若者たちへのエール
2023.02.21
少年時代、「宇宙戦艦ヤマト」をリアルタイムで観て育った自分にとって、松本零士氏が亡くなったことにショックを隠し切れない。
謹んでお悔やみを申し上げるとともに、心から哀悼の意を表したい。

父方は郷士、母方は武士という四国は愛媛県大洲の“武張った”旧家をルーツに、昭和13年福岡県久留米市に生まれた松本零士氏は、子供の時から母方の祖母や実母から「サムライの子として恥じない生き方をしろ」と口癖のように言われていたという。また、陸軍航空部隊の隊長としてレイテやマレーで戦ってきた実父からは「男として自分が信じる道を貫け。みだりに刀の柄に手をかけてはならない。いざというときは最後まで戦え。命よりも名を惜しめ。卑怯な振る舞いはするな」と教え込まれたと言う。

そういう松本氏は平成15年4月号の月刊正論に登場している。題は「時間は夢を裏切らない」。後に平成27年9月に臨時増刊号「大東亜戦争ー民族の記憶として」に「英霊への鎮魂と現代の若者たちへのエール 最後のサムライたちの大いなる遺産に思いを」と改題して再掲している。

その中で松本氏は、漫画好きの少年がプロになるべく上京する経緯を話している。

「小学6年生のとき、理論天文学者で京都産業大学を創立した故荒木俊馬氏が著した『大宇宙の旅』という本に遭遇しました。コトンという光の女神が少年を誘って全宇宙をみせるという、子供向けのようで子供向けでない、なかなか難解な内容の不思議な本でしたが、私はそれで宇宙というものへの憧れを抱いた。宇宙の広大なイメージを概念としてとらえることができ、その後ものを描くようになってからの基本的なモチーフともなったんです」。

宇宙戦艦ヤマトや、銀河鉄道999など、宇宙をテーマに描いてきた原点はそこにあるのかと理解することができる。

また、松本氏の漫画の根底に流れているテーマについて語っている。それは「不屈の信念」「風吹かば吹け、我恐れじ」そして「お互いの誇りと意地と信念を大切にする」という。さらに、九州小倉で学んだことの一つに「ボロは来てても心は錦」ということがあると内容に触れ、「服装がみすぼらしいからと侮るような態度をとろうものなら、親からも学校の先生からもひどく叱られる。そんなことで人を評価してはいけないという大人たちの確固とした価値観があった。私の描く漫画の主人公、たとえば「銀河鉄道999」の星野哲郎にしても、ボロを纏っていたりするのが少なくないのは、無意識にもそうした思いが反映しているからではないかと思っています」。

…なるほど。登場人物がボロを纏っているのはそう理由なのかと納得する。

そして、次の内容は私の心の奥深くに刺さった文章であったので、あえてご紹介したい。

「何より“脳細胞”という資源に恵まれています。これは無限大の可能性を秘めている何ものにも勝る資源です。これが連綿として何千年も前からわれわれを支え続けてきたわけです。そしてこの資源を失ったときに、わが国は滅びるであろうと思っています。ではそうならないためには何をすべきかといえば、大人がいかに子供を見守り、鍛えるかということにかかってくる。誤解を恐れずに言えば、子供たちに“良き刷り込み”をすることは大人の責任なんです。それぞれの進路に応じて『歯を食いしばって頑張れ』とエールを送ること。勉強であれ、運動であれ、少年時代のある期間とことん頑張って挑むことなくして、その後の人生を逞しく生きられるでしょうか。大人はその機会を『可哀想』だからと取り除くべきではない。併せて大人たる者は子供の盾となるべきものです。『頑張った時間はおまえ夢を裏切らない。その代わりおまえの夢も時間を無駄にしてはならない』と論すべきなのです(中略)子供たちに相対するとき、『頑張る気概』と『お互いを、認め合う精神』を涵養してやることが最も大事だと思うんです。大人が真摯にエールを送れば、それをちゃんと受け止めて投げ返してくれる子供は必ずいます。誠意は返ってくる。そのためにも厳しい試練の場に置くのと同時に、決して子供たちを諦めさせてはいけない。子供たちに対しては『頑張った時間はおまえの夢を裏切らない』というのはそういう意味なんです」。
さらに
「『人は生きるために生まれてくるものだ。人は死ぬために生まれてくるのではない』ということです。さらに、「誰が死にたくて生まれてくるものか」と。それはすべての歴史上の人物、兵士も市民もみなそうです。戦場に散った若者たちも、誰が死にたくて生まれてきたか。一人もいない。世界中の若者すべてがそうだと。そこに思いをきちんとかけないと、人生に対する解釈がおかしくなる。(中略)名だたる才能を持った私より年上の多くの人たちが、“若者のまま”戦場に散っていった。(中略)そうして消えた天才だけでなく、惰眠を貪ってふやけたように見える今の日本が、それでも世界から致命的な侮りを受けずに済んでいるのは、戦争末期の非常悲惨な状況下、究極の奮闘死闘を繰り広げて、その“命と死”をもって立ち向かってくれた数多くの戦士たち、日本史上最後のサムライの記憶と残像が、辛うじて面目を支えてくれているのだと信じている。私が描き続けているのは、その彼らの『誠』に報いたいからでもある。また若者たちに『時間は夢を裏切らない』と言うのも、自らの意思で自由に使える時間を、“命と死”をもって与えてくれた、まさに君たちのおじいさんに当たる、そのとき若きサムライだった彼らに思いを致して頑張れということなのです」と。

タイトルにあるように、次代を担う若者たちへのエールであり、そして、命を賭して戦ってくれた英霊の思いを致して頑張れ、その頑張った時間は夢を決して裏切らないといった勇気を与えてくれる言葉でもあるのだ。

こういった思いを胸に、多くの人々の心に残る作品を世に送り出してくれた松本零士氏に心館ら感謝の誠を捧げたい。本当にありがとう。
そして、その松本氏の思いを受け継いだ、現代に残された者たちの使命は重いものだということを忘れてはならない。
2023.02.21 13:56 | 固定リンク | 未分類

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