敵の分断工作に嵌ってはいけない
2022.04.30
ロシアによるウクライナ侵略をめぐる情報戦に、我々は日々翻弄されているが、何が正しくて何が間違っているのか、一見分からない報道や情報がある。
その中で「挑発したのはウクライナ」とか「ロシアにも正義がある」などと論じる保守系の識者も少なくない。また、「ウクライナだって悪いことをしているではないか」と言う者もいる。しかし、この視点は果たして正しいのか。私は疑問である。多様化された情報ソースに振り回されるのではなく、ことの本質は何であるのかを見極めなければならないと考える。
評論家の江崎道朗氏は月刊正論6月号(4月30日発売)で次のような指摘をしている。
「アンヌ・モレリというベルギーの歴史学者が『戦争プロパガンダ10の法則』(草思社文庫)という本の中で、戦争プロパガンダには以下のような法則があると指摘している。
①我々は戦争をしたくない。
②しかし敵側が一方的に戦争を望んだ。
③敵の指導者は悪魔のような人間だ。
④われわれは領土や覇権のためでなく、偉大な使命のために戦う。
⑤われわれも誤って犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為に及んでいる。
⑥敵は卑劣な兵器や戦略を用いている。
⑦われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は絶大。
⑧芸術家や知識人も正義の戦いを支持している。
⑨われわれの大義は神聖なものである。
⑩この正義に疑問を投げかけるものは裏切りものである。
要は「戦争にプロパガンダはつきものだということだ」として、プーチンに対し「侵略を
始めたプーチン大統領の言い分もまさにこの法則通りだ」としている。そして、「この議論を正当化すべくロシア政府は虐殺の映像まで作成」していたとし、「このことを暴いたのが米軍情報機関だ」という。
米CNNは「ロシアのプーチン大統領は今回のウクライナ侵攻を『ネオナチ』の手からロシア語話者を守る『特別作戦』と位置づけた」としているが、この内容は、江崎氏の指摘に合致している。「プーチンは悪くない!ウクライナ政府とDS(ディープステート=世界を操る影の政府)腐ってる」や「ロシアはウクライナで米国のディープステートが資金提供した生物学研究所を爆撃しました。既存のマスメディアが言っていることを信じないでください!」といった内容もSNS上に見受けられるが、これも同様であり、真実であるかどうかは疑問である。
我々が今回のウクライナ情勢で見逃してはいけない部分は、「どの国が侵略され、どの国の『国民の命』が奪われているのか」という「事実」に着目し、「独立国が、力による現状変更によって、主権が奪われることは絶対に許されるべきものではない」ということである。そして、これは、日本も他人事ではなく、肝に銘じておかなければならない。中国の脅威が迫っているからである。
「ロシアが勝った後のヨーロッパは一体どうなるのか。それを見ている中国はアジアで何をするのか」を客観的に見ていかなくてはいけない。
「ロシアが勝った後のヨーロッパは一体どうなるのか」。戦後築き上げてきた世界秩序は崩れるであろう。
「それを見ている中国はアジアで何をするのか」。台湾、尖閣諸島へと間違いなく侵略してくるであろう。
だから、このロシアによるウクライナ侵略は絶対に許してはならないし、ロシアを勝たせてはならないのである。
先日、ウクライナ政府が昭和天皇を、ナチス・ドイツの独裁者ヒトラー、イタリアのファシズム指導者ムソリーニと同列に扱った動画をツイッターに投稿し、日本政府の抗議を受けて問題の部分を削除していたことが分かったという報道があった。そして、ウクライナ政府は外交ルートを通じて謝罪の意を表明し、ツイッターにも「誤りを真摯におわびする。親切な日本の人々の気分を害する意図はなかった」と記した。
当然、昭和天皇をヒトラー、ムソリーニと同列に扱うのは甚だ遺憾であるのと同時に、侮辱的なことであるが、しかし、条件反射で「けしからん!」と言うだけでなく、少し冷静にみる必要がある。と言うのも、日本はイタリアのファシズムやナチス・ドイツと日独伊三国同盟を結んだのは歴史的には事実であり、日本の保守派で「ナチス・ドイツと組むべきではなかった」と明確に言っている人は多くないからである。
欧米の情報を鵜呑みにするのも危険ではないかとの指摘もある。しかし、「全体主義国家」であるロシアと「自由主義陣営」である欧米とを同列視するのも、いかがなものかとも思う。
我々は日本の国益を守るために、今回のロシアによるウクライナ侵略によって、何を学び、何を考え、そしてどのように行動すべきなのか。敵の分断工作に嵌るのではなく、客観的な視点で、冷静に、物事を分析するべきだとつくづく感じる次第である。
その中で「挑発したのはウクライナ」とか「ロシアにも正義がある」などと論じる保守系の識者も少なくない。また、「ウクライナだって悪いことをしているではないか」と言う者もいる。しかし、この視点は果たして正しいのか。私は疑問である。多様化された情報ソースに振り回されるのではなく、ことの本質は何であるのかを見極めなければならないと考える。
評論家の江崎道朗氏は月刊正論6月号(4月30日発売)で次のような指摘をしている。
「アンヌ・モレリというベルギーの歴史学者が『戦争プロパガンダ10の法則』(草思社文庫)という本の中で、戦争プロパガンダには以下のような法則があると指摘している。
①我々は戦争をしたくない。
②しかし敵側が一方的に戦争を望んだ。
③敵の指導者は悪魔のような人間だ。
④われわれは領土や覇権のためでなく、偉大な使命のために戦う。
⑤われわれも誤って犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為に及んでいる。
⑥敵は卑劣な兵器や戦略を用いている。
⑦われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は絶大。
⑧芸術家や知識人も正義の戦いを支持している。
⑨われわれの大義は神聖なものである。
⑩この正義に疑問を投げかけるものは裏切りものである。
要は「戦争にプロパガンダはつきものだということだ」として、プーチンに対し「侵略を
始めたプーチン大統領の言い分もまさにこの法則通りだ」としている。そして、「この議論を正当化すべくロシア政府は虐殺の映像まで作成」していたとし、「このことを暴いたのが米軍情報機関だ」という。
米CNNは「ロシアのプーチン大統領は今回のウクライナ侵攻を『ネオナチ』の手からロシア語話者を守る『特別作戦』と位置づけた」としているが、この内容は、江崎氏の指摘に合致している。「プーチンは悪くない!ウクライナ政府とDS(ディープステート=世界を操る影の政府)腐ってる」や「ロシアはウクライナで米国のディープステートが資金提供した生物学研究所を爆撃しました。既存のマスメディアが言っていることを信じないでください!」といった内容もSNS上に見受けられるが、これも同様であり、真実であるかどうかは疑問である。
我々が今回のウクライナ情勢で見逃してはいけない部分は、「どの国が侵略され、どの国の『国民の命』が奪われているのか」という「事実」に着目し、「独立国が、力による現状変更によって、主権が奪われることは絶対に許されるべきものではない」ということである。そして、これは、日本も他人事ではなく、肝に銘じておかなければならない。中国の脅威が迫っているからである。
「ロシアが勝った後のヨーロッパは一体どうなるのか。それを見ている中国はアジアで何をするのか」を客観的に見ていかなくてはいけない。
「ロシアが勝った後のヨーロッパは一体どうなるのか」。戦後築き上げてきた世界秩序は崩れるであろう。
「それを見ている中国はアジアで何をするのか」。台湾、尖閣諸島へと間違いなく侵略してくるであろう。
だから、このロシアによるウクライナ侵略は絶対に許してはならないし、ロシアを勝たせてはならないのである。
先日、ウクライナ政府が昭和天皇を、ナチス・ドイツの独裁者ヒトラー、イタリアのファシズム指導者ムソリーニと同列に扱った動画をツイッターに投稿し、日本政府の抗議を受けて問題の部分を削除していたことが分かったという報道があった。そして、ウクライナ政府は外交ルートを通じて謝罪の意を表明し、ツイッターにも「誤りを真摯におわびする。親切な日本の人々の気分を害する意図はなかった」と記した。
当然、昭和天皇をヒトラー、ムソリーニと同列に扱うのは甚だ遺憾であるのと同時に、侮辱的なことであるが、しかし、条件反射で「けしからん!」と言うだけでなく、少し冷静にみる必要がある。と言うのも、日本はイタリアのファシズムやナチス・ドイツと日独伊三国同盟を結んだのは歴史的には事実であり、日本の保守派で「ナチス・ドイツと組むべきではなかった」と明確に言っている人は多くないからである。
欧米の情報を鵜呑みにするのも危険ではないかとの指摘もある。しかし、「全体主義国家」であるロシアと「自由主義陣営」である欧米とを同列視するのも、いかがなものかとも思う。
我々は日本の国益を守るために、今回のロシアによるウクライナ侵略によって、何を学び、何を考え、そしてどのように行動すべきなのか。敵の分断工作に嵌るのではなく、客観的な視点で、冷静に、物事を分析するべきだとつくづく感じる次第である。
議論すべき!日本の安全保障
2022.04.05
ロシアによるウクライナ侵略は、あってはならない民間人の被害をも助長させ、市民に深刻な被害が生じ、遺体が散乱するなど、見るに堪えない画像もネットに拡散されている。
報道にもあるように、ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、米CBSの番組で、特定集団を抹殺するための大量虐殺を意味する「ジェノサイド」だと主張した。
なぜ、ここまでプーチンはウクライナに固執をするのか。前回のブログでここ数年の事実を記したが、この怨念に近い執念は、もっと以前からあったのものだという。アメリカのプーチン研究第一人者、米ブルッキングス研究所シニアフェローのフィオナ・ヒルが冷静かつ細密にプーチンを分析した一冊『プーチンの世界―「皇帝」になった工作員―』(新潮社刊)を紹介したが、その中から、〈プーチン、ぶちギレる〉の一節をデイリー新潮もネットで公開しているので、引用し、紹介したい。
「2007年になると、プーチンはついにぶちギレた。アメリカやNATOに対して、堪忍袋の緒がついに切れたことを明言したのだ。
彼はドイツという窓口や07年2月のミュンヘン安全保障会議の場を利用して、アメリカの当局者や専門家に直接訴えかけた。怒りの矛先は、アメリカが一極支配する安全保障システム、国連という枠組みの外での軍事行動などに向けられ、そのアメリカ批判は痛烈を極めた。特に、NATO拡大に対するプーチンの考えはまったくぶれることがなかった。『NATOは前線部隊をわれわれの国境付近に配置してきた。それでも、われわれは条約義務を厳格に守り、こうした活動にも目をつぶってきた。NATOの拡大が、同盟そのものの現代化やヨーロッパの安全保障の確保と無関係であることはあまりに明らかだ。一方、お互いの信頼を貶める重大な挑発であることは間違いない。そこで訊こう。NATO拡大はいったい誰に対抗するためのものなのか?』。大規模な国際会議の場で、プーチン大統領がアメリカへの不満をぶちまけたのはそれが初めてだった。この『プーチンの痛烈な批判』は、ミュンヘンの会議会場だけでなく、アメリカ政府内でも不評を買うことになる。
1年後の2008年4月、ルーマニアのブカレストで開催されたNATOサミットの際にも、プーチンは報道陣に対してほとんど同じ発言を繰り返した。彼はミュンヘンでの自身の発言からさらに一歩踏み込み、NATOに対する根本的な疑問―ソ連崩壊後も活動を続け、容赦なく拡大しつづけるその姿勢から湧き上がる疑問―に立ち返り、次のように述べた。
『もはやソ連も東側諸国もワルシャワ条約機構も存在しない。それは間違いない。だとすれば、NATOは誰に対抗するためにあるのか?聞けば、今日の問題や課題を解決するためにあるという。何のことだ?どういう問題や課題なのだろう?…NATOブロックの存在自体が今日の課題や脅威の有効な解決策になるわけではない。この点には、ここにいる多くのみなさんが同意してくれると思う。それでも、NATOが今日の国際社会の要素、世界の安全保障の要素の一つだと認識しているからこそ、われわれは協力しているのだ。さきほど聞いた話によれば、NATOの拡大の目的はロシアに対抗することではないという。私はヨーロッパの歴史に大いに関心があり、その歴史を愛している。ドイツの歴史もしかりだ。ビスマルクはドイツだけでなく、ヨーロッパにとっても重要な政治指導者だった。彼は言った。こういう場合、重要なのはそうする意図があるかどうかではなく、そうする能力があるかどうかだ、と…われわれは東欧に配置していた部隊を撤退させたし、ロシアのヨーロッパ部分にあった大型の重兵器のほとんどを撤去した。それから、どうなった?われわれが今いるルーマニアの(米軍)基地、ブルガリアの(米軍)基地、ポーランドとチェコ共和国へのアメリカのミサイル防衛システムの設置。西側の軍のインフラがすべてわれわれの国境近くへと移動しているのだ』。
NATOのブカレスト・サミットは、ウラジーミル・プーチンに不愉快な驚きをもたらした。NATOはこのサミットにおいて、ジョージアとウクライナに加盟行動計画(MAP)を適用する予定だったが、ロシアの反対によって断念。しかし、最終的な加盟の可能性までは除外しなかった。2008年という年は、アメリカ、NATO、西側諸国との関係という点においてプーチンには厄難続きの年だった。2月、ロシアの反対もむなしく、アメリカや多くのヨーロッパ諸国がコソボを国家として承認し、ロシアの1999年の古傷に塩を塗ることになった(注:1999年はロシア国内で連続爆破事件が発生。これを受けロシアがチェチェンに侵攻。プーチンが大統領代行に指名された年でもある)。
プーチンはこれを『有害で危険な先例』と批判し、コソボの独立がジョージアからの分離を主張するアブハジアと南オセチアの両共和国に与える影響について指摘した。6月、ロシア大統領に就任したばかりのドミートリー・メドヴェージェフは、初となる重要な外交訪問と演説のため、ベルリンに向かった。そこで、彼はヨーロッパの新たな安全保障の体制と条約の策定を提案した。しかし、彼の提案はアメリカとその同盟国によってすぐさま拒否されてしまう。8月、ロシアはジョージアと交戦状態に陥った。それは、ミヘイル・サアカシュヴィリ大統領が南オセチアの分離派への軍事作戦開始を決定したことへの報復措置だった。ジョージア側の砲撃によって、南オセチアの首都ツヒンヴァリで活動していたロシア平和維持軍の兵士が死亡すると、ロシアによる全面的な軍事侵攻が始まった。当時、ロシアの大統領はメドヴェージェフであり、いちおうは彼が最高指導者ということになっていた。しかし、その裏でウラジーミル・プーチンが満を持して立ち上がったのは明々白々だった」。
2016年12月に発行されている著書であるから、少し古いかもしれないと思いきや、そんなことはない。デイリー新潮編集部曰く「前回のウクライナ侵攻、クリミア危機に至る前段として示された具体例であるはある。しかし、現在のロシアによるウクライナ侵略をみても、構造は何も変わっていない。むしろウクライナの政権が変わり、プーチンとの対立がより深まった現在は、さらに厳しくなっていると見るべきである。すなわち、この15年間、プーチンはキレっぱなしであり、その導火線はつねに剥き出しだったのだ」。
この指摘には深く賛同できる。
東野篤子筑波大准教授は3月9日付読売新聞オンラインで以下のように論評している。とても参考になるため、引用し、紹介したい。
「プーチン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大について、1991年に『米国が東方拡大はしないと口約束をした』と繰り返し述べている。ドイツの再統一交渉時、米国のベーカー国務長官らがロシアに語った内容を根拠としている。
しかし、NATOの一部政治指導者の発言を、NATOの総意とみなすのは無理がある。ましてや口頭での約束を破ったからといって、主権国家への侵攻が許されるわけがない。
『口約束』の後の展開も重要だ。ロシアは97年にNATOと基本議定書を結び、互いに敵と見なさないことを確認した。NATOの東方拡大を事実上黙認したことになる。
2002年には『NATOロシア理事会』新設に関するローマ宣言にプーチン氏が自ら署名し、NATOに接近した。ローマ宣言は、バルト3国のNATO加盟につながった。
ロシアとNATOが2度にわたって文書を交わし、協力の強化で合意している事実は重い。 『欧州の秩序から自分たちは 弾はじかれた』というロシアの主張も、あまりにも一方的だ。
欧州連合(EU)はプーチン政権に対し、政治・経済・文化などの分野で連携する『EUロシア共通空間』を含め、様々な構想を提示してきた。だが、その都度ロシアはEUの提案を退けた。EUとどのような協力関係を築きたいのか、ロシア側が具体的に示したことはない。
他方、欧州側にロシアとの意思疎通の努力が欠けていたのも事実だ。
ロシアが欧米をあからさまに敵視するようになったのは、08年のNATO首脳会議でジョージアとウクライナの将来加盟が約束されたのがきっかけだ。ロシアは14年、ウクライナの主権を認めることを柱とした1994年のブダペスト覚書を破り、クリミアを併合した。
その後、ロシアと欧州の対話の機会は著しく細ってしまった。欧州がロシアを厄介者のように扱った結果、ロシアが孤立感を深めていった側面は否定できない。
ウクライナ侵攻を踏まえ、先進7か国(G7)は、国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの主要銀行を排除するなどの経済制裁を決めた。
『オリガルヒ』と呼ばれるロシア新興財閥の幹部が、プーチン氏に忠誠を尽くしてきたのは損得勘定からだ。制裁で苦境に陥れば、オリガルヒらの『プーチン離れ』は一気に進むだろう。
クリミア併合以降、ウクライナはロシアの脅威にさらされ続けてきた。歴史をさかのぼれば、1930年代にはスターリンの政策によって『ホロドモール』と呼ばれる大飢饉ききんが引き起こされた。両国を『兄弟国家』と呼ぶのは短絡的で、ウクライナ国民の対露感情は複雑だ」。(中略)
ゼレンスキー氏が欧米への傾斜を強め、ロシアを刺激したことが侵攻につながったとの見方も出ているが、どの国にも同盟相手を自由に選ぶ権利はある。
ウクライナは、市場経済への移行や司法制度改革などに取り組み、一定の成果を出してきた。そうした『欧州化』をロシアが懸念した結果が今回の侵攻だとするなら、ウクライナに非はない。 瑕疵かしのない側に『降伏したらどうか』とか、『NATOへの加盟は諦めろ』などと譲歩を迫るのは、理不尽だ。
ウクライナはEUへの加盟を求めている。汚職の撤廃や経済の安定などの条件を満たさねばならず、すぐには無理だろう。
EUには、将来の交渉を前提にした『加盟候補国』とする仕組みがある。EUはウクライナを加盟候補国に認定し、『西側の一員だ』というメッセージを発することが大切だ。
フィンランドやスウェーデンでは、NATO加盟を求める世論が高まっている。欧州各国で『ロシア離れ』が加速しているのは、ロシアの『オウンゴール』と言える」。
適切で分かりやすい論評である。ロシアのウクライナ侵略は欧米との対立は否定できない。そして、欧州、米国はその責任もある。ウクライナへの武器供与を推進しているが、それだけでは、ウクライナも、ロシアも矛は収まらないだろう。
ロシアはウクライナとの人道回路や停戦交渉の約束を、ことごとく反故にしてきた。また、歴史を振り返ってみれば、大東亜戦争時に日本との中立条約を一方的に破棄して攻め込み、樺太、しいては満州において、終戦後の昭和20(1945)年8月27日に満洲国吉林省敦化でソ連軍によって連日に渡り集団強姦され続けていた日満パルプ製造(王子製紙子会社)敦化工場の女性社員や家族が集団自決した敦化(とんか)事件などが思い出される。歴史は繰り返されるのである。よって、ロシアを信用してはならない。
今回のウクライナへの民間人の蛮行は、歴史から考えれば、ある程度予想はされたかもしれない。だからと言ってプーチンが行ったロシアの蛮行は許されるべきものでは決してない。ましてや、主権国家を武力で侵略し、一般人までも虐殺されることに憤りを感じる。
ロシア軍の侵略を受けるウクライナのゼレンスキー大統領が3月23日、日本の国会でオンライン演説をした。侵略を続けるロシアに対し、日本の経済制裁の継続を要請。ロシアが「サリンなどの化学兵器を使った攻撃を準備している」と危機感を表明した。また、ロシアの攻撃により国内の原発が危険な状況にあるとも訴えた。
今現在、戦闘下であるにも関わらず、ナショナリズムを煽ることもせず、日本の現状に配慮し、良く考えられた演説だったと思う。事実に即した内容に伴い、日本に対して、アジアで最初に支援したことに対する謝辞、そして日本国内で意見の対立を起こしそうな話もせず、日本には出来ない武器の支援など言わず、今後の支援に対する期待と国際社会やアジアにおけるリーダーシップの発揮など、日本に出来うる可能性の有る事柄などを淡々と静かに話されており、立派な内容だったと思う。そして、色々と世論を煽る言動をするコメンテーターがいるが、客観的に物事を見ていきたいと、自省の意をこめて、そう思う。
今回のこのロシアによるウクライナ侵略をどう見ていくべきなのか。
ハイブリッド戦争や、SNSによる情報戦争、サイバー戦争は、かなり有効な軍事戦略であり、また、核保有は軍事に対し、脅しに効くことが証明された。ドローンや無人機の活用など、以前とは戦い方も変わってきている。昔のままではいかないのである。
岸田文雄首相は4月2日午前の参院予算委員会で、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について「政府として議論することは考えていない」と明言した。「非核三原則を堅持する立場や、原子力の平和利用を規定している原子力基本法をはじめとする法体系からから考えて認めることは難しい」との認識を示した。
自分が良ければすべてよしであるロシア、海洋進出を続け、尖閣を我がものにしようとたくらんでいる腹黒中国、そして、ミサイルをひたすら打ち続け、核をも辞さないと脅している北朝鮮など、何をするかわからない不貞な国々が、我が国を取り巻く安全保障環境に対し、本当にこの首相は日本の安全保障環境をどのように考えているのか、はなはだ疑問であるし、この人に日本の安全を委ねていいものかと疑問すら残る。中国による尖閣奪取も時間の問題だと指摘されているなか、日本の安全保障環境の整備は待ったなしなのである。
4月1日発売の月刊正論5月号に兼原信克元内閣官房副長官補が、国会には核兵器を論じる義務があるとして、「核兵器を抑止するのは核兵器だけ」と記している。今回の「特集『核』を議論せよ」は必読である。
正論編集部が言うように「国民の理解を深めるためにも、賛成であろうが、反対であろうが、タブーを排して『核』を議論すべき」である。そして、自国は自国民で護るという気概を我々は持つべきであるし、「いまこそ『戦後』と決別を」をしなければならない。
報道にもあるように、ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、米CBSの番組で、特定集団を抹殺するための大量虐殺を意味する「ジェノサイド」だと主張した。
なぜ、ここまでプーチンはウクライナに固執をするのか。前回のブログでここ数年の事実を記したが、この怨念に近い執念は、もっと以前からあったのものだという。アメリカのプーチン研究第一人者、米ブルッキングス研究所シニアフェローのフィオナ・ヒルが冷静かつ細密にプーチンを分析した一冊『プーチンの世界―「皇帝」になった工作員―』(新潮社刊)を紹介したが、その中から、〈プーチン、ぶちギレる〉の一節をデイリー新潮もネットで公開しているので、引用し、紹介したい。
「2007年になると、プーチンはついにぶちギレた。アメリカやNATOに対して、堪忍袋の緒がついに切れたことを明言したのだ。
彼はドイツという窓口や07年2月のミュンヘン安全保障会議の場を利用して、アメリカの当局者や専門家に直接訴えかけた。怒りの矛先は、アメリカが一極支配する安全保障システム、国連という枠組みの外での軍事行動などに向けられ、そのアメリカ批判は痛烈を極めた。特に、NATO拡大に対するプーチンの考えはまったくぶれることがなかった。『NATOは前線部隊をわれわれの国境付近に配置してきた。それでも、われわれは条約義務を厳格に守り、こうした活動にも目をつぶってきた。NATOの拡大が、同盟そのものの現代化やヨーロッパの安全保障の確保と無関係であることはあまりに明らかだ。一方、お互いの信頼を貶める重大な挑発であることは間違いない。そこで訊こう。NATO拡大はいったい誰に対抗するためのものなのか?』。大規模な国際会議の場で、プーチン大統領がアメリカへの不満をぶちまけたのはそれが初めてだった。この『プーチンの痛烈な批判』は、ミュンヘンの会議会場だけでなく、アメリカ政府内でも不評を買うことになる。
1年後の2008年4月、ルーマニアのブカレストで開催されたNATOサミットの際にも、プーチンは報道陣に対してほとんど同じ発言を繰り返した。彼はミュンヘンでの自身の発言からさらに一歩踏み込み、NATOに対する根本的な疑問―ソ連崩壊後も活動を続け、容赦なく拡大しつづけるその姿勢から湧き上がる疑問―に立ち返り、次のように述べた。
『もはやソ連も東側諸国もワルシャワ条約機構も存在しない。それは間違いない。だとすれば、NATOは誰に対抗するためにあるのか?聞けば、今日の問題や課題を解決するためにあるという。何のことだ?どういう問題や課題なのだろう?…NATOブロックの存在自体が今日の課題や脅威の有効な解決策になるわけではない。この点には、ここにいる多くのみなさんが同意してくれると思う。それでも、NATOが今日の国際社会の要素、世界の安全保障の要素の一つだと認識しているからこそ、われわれは協力しているのだ。さきほど聞いた話によれば、NATOの拡大の目的はロシアに対抗することではないという。私はヨーロッパの歴史に大いに関心があり、その歴史を愛している。ドイツの歴史もしかりだ。ビスマルクはドイツだけでなく、ヨーロッパにとっても重要な政治指導者だった。彼は言った。こういう場合、重要なのはそうする意図があるかどうかではなく、そうする能力があるかどうかだ、と…われわれは東欧に配置していた部隊を撤退させたし、ロシアのヨーロッパ部分にあった大型の重兵器のほとんどを撤去した。それから、どうなった?われわれが今いるルーマニアの(米軍)基地、ブルガリアの(米軍)基地、ポーランドとチェコ共和国へのアメリカのミサイル防衛システムの設置。西側の軍のインフラがすべてわれわれの国境近くへと移動しているのだ』。
NATOのブカレスト・サミットは、ウラジーミル・プーチンに不愉快な驚きをもたらした。NATOはこのサミットにおいて、ジョージアとウクライナに加盟行動計画(MAP)を適用する予定だったが、ロシアの反対によって断念。しかし、最終的な加盟の可能性までは除外しなかった。2008年という年は、アメリカ、NATO、西側諸国との関係という点においてプーチンには厄難続きの年だった。2月、ロシアの反対もむなしく、アメリカや多くのヨーロッパ諸国がコソボを国家として承認し、ロシアの1999年の古傷に塩を塗ることになった(注:1999年はロシア国内で連続爆破事件が発生。これを受けロシアがチェチェンに侵攻。プーチンが大統領代行に指名された年でもある)。
プーチンはこれを『有害で危険な先例』と批判し、コソボの独立がジョージアからの分離を主張するアブハジアと南オセチアの両共和国に与える影響について指摘した。6月、ロシア大統領に就任したばかりのドミートリー・メドヴェージェフは、初となる重要な外交訪問と演説のため、ベルリンに向かった。そこで、彼はヨーロッパの新たな安全保障の体制と条約の策定を提案した。しかし、彼の提案はアメリカとその同盟国によってすぐさま拒否されてしまう。8月、ロシアはジョージアと交戦状態に陥った。それは、ミヘイル・サアカシュヴィリ大統領が南オセチアの分離派への軍事作戦開始を決定したことへの報復措置だった。ジョージア側の砲撃によって、南オセチアの首都ツヒンヴァリで活動していたロシア平和維持軍の兵士が死亡すると、ロシアによる全面的な軍事侵攻が始まった。当時、ロシアの大統領はメドヴェージェフであり、いちおうは彼が最高指導者ということになっていた。しかし、その裏でウラジーミル・プーチンが満を持して立ち上がったのは明々白々だった」。
2016年12月に発行されている著書であるから、少し古いかもしれないと思いきや、そんなことはない。デイリー新潮編集部曰く「前回のウクライナ侵攻、クリミア危機に至る前段として示された具体例であるはある。しかし、現在のロシアによるウクライナ侵略をみても、構造は何も変わっていない。むしろウクライナの政権が変わり、プーチンとの対立がより深まった現在は、さらに厳しくなっていると見るべきである。すなわち、この15年間、プーチンはキレっぱなしであり、その導火線はつねに剥き出しだったのだ」。
この指摘には深く賛同できる。
東野篤子筑波大准教授は3月9日付読売新聞オンラインで以下のように論評している。とても参考になるため、引用し、紹介したい。
「プーチン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大について、1991年に『米国が東方拡大はしないと口約束をした』と繰り返し述べている。ドイツの再統一交渉時、米国のベーカー国務長官らがロシアに語った内容を根拠としている。
しかし、NATOの一部政治指導者の発言を、NATOの総意とみなすのは無理がある。ましてや口頭での約束を破ったからといって、主権国家への侵攻が許されるわけがない。
『口約束』の後の展開も重要だ。ロシアは97年にNATOと基本議定書を結び、互いに敵と見なさないことを確認した。NATOの東方拡大を事実上黙認したことになる。
2002年には『NATOロシア理事会』新設に関するローマ宣言にプーチン氏が自ら署名し、NATOに接近した。ローマ宣言は、バルト3国のNATO加盟につながった。
ロシアとNATOが2度にわたって文書を交わし、協力の強化で合意している事実は重い。 『欧州の秩序から自分たちは 弾はじかれた』というロシアの主張も、あまりにも一方的だ。
欧州連合(EU)はプーチン政権に対し、政治・経済・文化などの分野で連携する『EUロシア共通空間』を含め、様々な構想を提示してきた。だが、その都度ロシアはEUの提案を退けた。EUとどのような協力関係を築きたいのか、ロシア側が具体的に示したことはない。
他方、欧州側にロシアとの意思疎通の努力が欠けていたのも事実だ。
ロシアが欧米をあからさまに敵視するようになったのは、08年のNATO首脳会議でジョージアとウクライナの将来加盟が約束されたのがきっかけだ。ロシアは14年、ウクライナの主権を認めることを柱とした1994年のブダペスト覚書を破り、クリミアを併合した。
その後、ロシアと欧州の対話の機会は著しく細ってしまった。欧州がロシアを厄介者のように扱った結果、ロシアが孤立感を深めていった側面は否定できない。
ウクライナ侵攻を踏まえ、先進7か国(G7)は、国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの主要銀行を排除するなどの経済制裁を決めた。
『オリガルヒ』と呼ばれるロシア新興財閥の幹部が、プーチン氏に忠誠を尽くしてきたのは損得勘定からだ。制裁で苦境に陥れば、オリガルヒらの『プーチン離れ』は一気に進むだろう。
クリミア併合以降、ウクライナはロシアの脅威にさらされ続けてきた。歴史をさかのぼれば、1930年代にはスターリンの政策によって『ホロドモール』と呼ばれる大飢饉ききんが引き起こされた。両国を『兄弟国家』と呼ぶのは短絡的で、ウクライナ国民の対露感情は複雑だ」。(中略)
ゼレンスキー氏が欧米への傾斜を強め、ロシアを刺激したことが侵攻につながったとの見方も出ているが、どの国にも同盟相手を自由に選ぶ権利はある。
ウクライナは、市場経済への移行や司法制度改革などに取り組み、一定の成果を出してきた。そうした『欧州化』をロシアが懸念した結果が今回の侵攻だとするなら、ウクライナに非はない。 瑕疵かしのない側に『降伏したらどうか』とか、『NATOへの加盟は諦めろ』などと譲歩を迫るのは、理不尽だ。
ウクライナはEUへの加盟を求めている。汚職の撤廃や経済の安定などの条件を満たさねばならず、すぐには無理だろう。
EUには、将来の交渉を前提にした『加盟候補国』とする仕組みがある。EUはウクライナを加盟候補国に認定し、『西側の一員だ』というメッセージを発することが大切だ。
フィンランドやスウェーデンでは、NATO加盟を求める世論が高まっている。欧州各国で『ロシア離れ』が加速しているのは、ロシアの『オウンゴール』と言える」。
適切で分かりやすい論評である。ロシアのウクライナ侵略は欧米との対立は否定できない。そして、欧州、米国はその責任もある。ウクライナへの武器供与を推進しているが、それだけでは、ウクライナも、ロシアも矛は収まらないだろう。
ロシアはウクライナとの人道回路や停戦交渉の約束を、ことごとく反故にしてきた。また、歴史を振り返ってみれば、大東亜戦争時に日本との中立条約を一方的に破棄して攻め込み、樺太、しいては満州において、終戦後の昭和20(1945)年8月27日に満洲国吉林省敦化でソ連軍によって連日に渡り集団強姦され続けていた日満パルプ製造(王子製紙子会社)敦化工場の女性社員や家族が集団自決した敦化(とんか)事件などが思い出される。歴史は繰り返されるのである。よって、ロシアを信用してはならない。
今回のウクライナへの民間人の蛮行は、歴史から考えれば、ある程度予想はされたかもしれない。だからと言ってプーチンが行ったロシアの蛮行は許されるべきものでは決してない。ましてや、主権国家を武力で侵略し、一般人までも虐殺されることに憤りを感じる。
ロシア軍の侵略を受けるウクライナのゼレンスキー大統領が3月23日、日本の国会でオンライン演説をした。侵略を続けるロシアに対し、日本の経済制裁の継続を要請。ロシアが「サリンなどの化学兵器を使った攻撃を準備している」と危機感を表明した。また、ロシアの攻撃により国内の原発が危険な状況にあるとも訴えた。
今現在、戦闘下であるにも関わらず、ナショナリズムを煽ることもせず、日本の現状に配慮し、良く考えられた演説だったと思う。事実に即した内容に伴い、日本に対して、アジアで最初に支援したことに対する謝辞、そして日本国内で意見の対立を起こしそうな話もせず、日本には出来ない武器の支援など言わず、今後の支援に対する期待と国際社会やアジアにおけるリーダーシップの発揮など、日本に出来うる可能性の有る事柄などを淡々と静かに話されており、立派な内容だったと思う。そして、色々と世論を煽る言動をするコメンテーターがいるが、客観的に物事を見ていきたいと、自省の意をこめて、そう思う。
今回のこのロシアによるウクライナ侵略をどう見ていくべきなのか。
ハイブリッド戦争や、SNSによる情報戦争、サイバー戦争は、かなり有効な軍事戦略であり、また、核保有は軍事に対し、脅しに効くことが証明された。ドローンや無人機の活用など、以前とは戦い方も変わってきている。昔のままではいかないのである。
岸田文雄首相は4月2日午前の参院予算委員会で、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について「政府として議論することは考えていない」と明言した。「非核三原則を堅持する立場や、原子力の平和利用を規定している原子力基本法をはじめとする法体系からから考えて認めることは難しい」との認識を示した。
自分が良ければすべてよしであるロシア、海洋進出を続け、尖閣を我がものにしようとたくらんでいる腹黒中国、そして、ミサイルをひたすら打ち続け、核をも辞さないと脅している北朝鮮など、何をするかわからない不貞な国々が、我が国を取り巻く安全保障環境に対し、本当にこの首相は日本の安全保障環境をどのように考えているのか、はなはだ疑問であるし、この人に日本の安全を委ねていいものかと疑問すら残る。中国による尖閣奪取も時間の問題だと指摘されているなか、日本の安全保障環境の整備は待ったなしなのである。
4月1日発売の月刊正論5月号に兼原信克元内閣官房副長官補が、国会には核兵器を論じる義務があるとして、「核兵器を抑止するのは核兵器だけ」と記している。今回の「特集『核』を議論せよ」は必読である。
正論編集部が言うように「国民の理解を深めるためにも、賛成であろうが、反対であろうが、タブーを排して『核』を議論すべき」である。そして、自国は自国民で護るという気概を我々は持つべきであるし、「いまこそ『戦後』と決別を」をしなければならない。